Now And Then

「Now And Then」
ビートルズ最後の新曲
素晴らしい曲と思いました 。 私にとってこれはまさしく新曲です。最後に素晴らしいものをいただきました。

「もし何かうまくやれるなら、それは全部君のおかげなんだ。」
「いなくなって時々寂しくなる。そばにいてほしい。」
ジョン・レノンは当時(1978年ころ)、単純なラブソングとしてこれを書いたのかもしれない。 でも今ビートルズとしてこれを出してきたのはたまたまじゃないと感じます。
Iがだれで、youがだれなのか。
ジョンとヨーコなのだろうけど、ビートルズとファンかもしれないし、ジョンとビートルズかもしれないし、あるいは自分と誰かを勝手に想像してもいい。
私はもともと解釈を各自にゆだねるやり方が好きじゃないのですが、今この曲がでたことでいろんな想像を掻き立てられてしまうのです。

Free As A Bird」「Real Love」はそれぞれ「The Beatles Anthology 1」「The Beatles Anthology 2」に収められた楽曲です(1994年ころ)。
未発表テイクや未発表曲を集めたアンソロジーの中でこの2曲は新たに作られた曲として大変話題になりました。
「Now And Then」と同じく、生前のジョンが残したデモ音源に他メンバーが音を重ねて完成させた曲です。
非常にビートルズであることを意識して作られた曲に思います。どちらの曲も、ビートルズならこうするよね、といった工夫を感じさせます。
ただ曲そのものはビートルズが解散した後のジョンならではのものといえます。シンプルで飾らず、一人称単数の曲です。
鼻を垂らしてぺろぺろキャンディーを舐めていたクソガキの私には、ビートルズらしく仕上げようという作為があざとく感じられてしまい、 新曲が出たというのは衝撃的な出来事でしたが好きにはなれませんでした。
ここにいるのはビートルズという伝説の一部であり、やはり生前の歴史の一部に感じました。

「Now And Then」 はもともと「The Beatles Anthology 3」でのリリースが検討されており、噂はいろいろ伝わっていたためこのタイトルだけは有名でした。
当時は新曲としての発表は見送られ、今回デモ音源を技術的にクリーンにすることが可能になり、2023年に完成度高い状態でリリースすることが可能になったようです。

この曲は非常にシンプルに聞こえます。 そして今のビートルズです。
曲が始まってギターの音が聞こえると、まさに今のポールがギターを弾いています。「McCartney III」の音を思い起こさせます。 スライドギターは主張しすぎず、まるで今のジョージのようなきれいなトーンで流れます。
歴史上の彼らではなく、今の彼らが音を作っているのです。
今、というリアル。
おじいちゃんになったメンバーがもう一回集まって2023年に新曲を作ろうとした。そう感じさせる説得力があります。
ネクタイを締めて革靴で歩いてすっかり丸くなった今の私は、ビートルズの時代に生きているという実感を初めて感じさせられました。

「Now And Then」
いいタイトルだと思います。

この曲のシングルCD版には、カップリングにデビュー曲である「Love Me Do」が収められています。
ここにきて彼らは永遠回帰を獲得したということですが、私は本当の意味で原点に戻ったんだと解釈しています。
伝説だったビートルズを再現するのではなく、今のビートルズが今そのままを表現した。念願の Get Back 実現。
ビートルズが歴史じゃなくなった今もう一回「Love Me Do」から聴きなおしたら、たぶん違う感覚が得られる気がします。

Iは私でyouがビートルズとして物事を見れるようになりましたよ、というお話。